2023-07-09

使い道のないポケット

メルカリで服を買うのが好きで、ちょくちょく検索をしては、手頃な値段で最低限のサイズと状態が問題なことを確認できたものを勢いで買う。いい意味でも悪い意味でも期待からズレたものが届くから、それもまた一興で楽しい。打率は五分五分といったところ。

先月ぐらいに買った、どちらかといえば期待以上だったシャツを木曜日に洗濯して日当たりのいい廊下に干していたら、裾の付近にポケットがひとつあることに気づいた。何回か着たはずなのにまったく察知できなかったぐらい控えめに、ご丁寧にボタン付きのフラップのあるタイプのポケット。
おお、こんなところにポケットが、とちょっとびっくりして、そのあとちょっと落ちついて、薄手の生地のシャツの裾のあたりのポケットって入れるものが特に無いじゃん、スマホでも入れようものならめちゃくちゃ型崩れしそうじゃん。という結論になった。使い道のないポケット。
このポケットの存在に気づいて、かえって愛着が湧いたのは不思議だ。実用性のディテールであるポケットがひっそりと主張せず、使われることもなく静かにたたずんでいることが、良いね、という気持ち。ちょっと歪んだ茶器を愛でる戦国武将みたいな。

人間関係において、はじめは真面目すぎて退屈な人だな、という印象だった人が、何度か会ったり話たりするうちに謎のこだわりや奇妙なクセを持っていることがわかると、急に親近感が湧くことがある。この人、絶対にWikipediaのことをWikiって略さず呼ぶな、みたいな。それはただのめんどくさい人かもしれない。その人なりのどこかに付いている謎ポケットを見つけたい。神は細部に宿る、人となりは謎ポケットに表れる。

とはいえ、あざといのはよくない。ポケットだらけのベストを着ても違和感が無いのはファッション上級者とアウトドア趣味の人だけだ。いかにも見てくれと言わんばかりのポケットは、キャラ付けである。ドラえもんぐらい万能なポケットなら話は別だけど。